余所者-よそもの-【 2 】



潤はやがて大通りまで出ると、足を止めた。


私を抱えて、きっと重いだろうに。

潤は愚痴一つ零さず、涼しい顔でここまで歩いてきた。


「潤さん、私もう降ります」

「うん、大丈夫。それよか、片手上げられる?」

「手?」

「あのタクシー捕まえてほしい」


行き交う車のテールランプに照らされた、潤の顔。

視線の先を辿ると、一台のタクシーがこちらにむかって走ってきていた。


私が手を上げると、タクシーが目の前に停まった。

潤は私を抱えたまま後部座席に乗り込み、そっとシートに座らせた。


タクシーのおじさんは、ミラー越しに血で汚れた私をじろりと見た。
『シート汚すなよ』とでも言いたげな顔つき。


「どこまで?」

たしかに。
どこに行くんだろう。


「おっちゃん、ちょっと待ってな。んー、どこだっけ。住所……」

スマホを忙しなくスクロールさせる潤。

「ダメだ、出ねー」

私の方を振り返る。


「ユキんちまでの道、案内できる?」

「ユキさんち?」


……ユキの家、だと?


「え、ユキさんの家に行くんですか?今から?なんで?」

「休めるところ行くって言ったろ」

「いや、でも。……っていうか私、ユキさんのマンションの鍵持ってきてませんし」

「それなら心配ご無用」


ふっと不敵に笑った潤。

背広ポケットから出てきたのは、黒くて丸い形をしたプラスチックの塊。

それを指先でぷらぷらと揺らし、得意げに見せびらかした。


「な、なんで潤さんが持ってるんですか?」

「さっきカナコちゃんの部屋上がったときに取った」


呆気に取られる私。

ふと、タクシーのおじさんの痛い視線に気が付く。

『早く言えよ』そんな目がバックミラー越しにビシビシと飛んでくる。


「そこをまっすぐに、次の信号を左折してください……」

私はもう観念して、通い慣れたユキの自宅マンションまで案内した。