しばらく私の言葉を待ったあと、潤は小さく息を吐いた。
スラックスの後ろポケットから取り出したのは、高級そうなハンカチ。
それを何の躊躇いもなく、私の鼻にあてがった。
こんなにいいハンカチを汚すくらいなら、頑張ってティッシュを取っておくんだった……。
そんなことをぼんやり考えていると、潤の手が鼻を押さえ直した。
もう片方の手が、そっと首の後ろに添えられる。
「……ん?カナコちゃん、もしかして熱ある?」
コクンと頷くと、潤は私の手首をとった。
鼻に当てていたハンカチを、そっと私の手に持たせる。
「手、痛むかもしれないけど、血だけ押さえてな」
くるりと向きを変え、私に背中を差し出した。
「乗って。2階で休もう」
けれど、私はその場から動けなかった。
「……なんだ?」
「2階は……使えないんです」
潤は訝しげにこちらを振り返った。
けれど、次の瞬間には立ち上がっていた。
「……潤さん、待ってっ」
呼び止めも虚しく。
潤は一人で後ろの梯子をのぼって、二階に上がってしまった。


