「………」
手元のスマホに目を落とす。
電話帳から『紫藤 怜』を選択する。
発信ボタンをタップ。
……する、だけ。
なのに……。
──『おう!お前やっぱ気ぃ利くよな!今日発売のジャンプ、もう買ってくれてたのか!』
──『よく見てますね。カナコさん』
──『カーナコちゃん!どうしたの?』
──『お前って、本当に……どうしようもないヤツだね』
みんなの顔が、頭に浮かぶ。
私に向けられた声が、耳の内側に響く。
「………」
スマホを閉じた。
空を見上げた。
雲が絶えず流れていた。
私の中の煩わしいものも全部、持って行ってくれないかな。
そんなくだらないことを願いながら、深まっていく空の色を眺め続けた。
どれだけ私が頑なに立ち止まっても、時間は進む。
やがて、空が白み始めた。
昇ってきた朝日が、冷えた身体をじんわりと温める。
……帰ろう。
気がつけば、私の足はAnBarへと向かっていた。


