だから、
蓮見くんがこっちを見たことに、吃驚した。
なにより、あたしの声が彼の耳に届いたことが、嬉しかった…。
けれど、そんなあたしと違い、彼はどこか苦しそうで。
どうして、そんな顔するの…?
「やり過ぎたんじゃないですか?ーーーーセンパイ」
いつもの王子はどこに行ったの?
それくらい、先輩に対するいまの蓮見くんは無表情だ。
そのまま、ゆっくりと、彼女に近づいてゆく。
「あ、あたし、は、た、ただ……」
先輩も、やっと、可笑しさに気づいたのだろう。声が震えている。
「ハサミ、ねぇ…」
目の前まで来た蓮見くんは、冷たい声と共に、先輩が持っている右手のハサミへと視線を向ける。
カキーーーーンッ
ガタガタと震えていた先輩の右手から、ハサミが、滑り落ちた。
「こんな物騒なモンで、何するつもりだったワケ?」
落ちたそれを、拾い上げ、ぶら下げる。
彼の問い掛けに、私まで、震えそうだった。
「ち、ちがっ……」
恐怖に脅えるその顔は、涙でぐちゃぐちゃで。
さっきまでの"綺麗"だった美和先輩はどこにもいない。
そんな先輩を追い詰めているのは、彼女が恋焦がれていた"王子"。

