奇跡と呼ぶには

「...蘭」

「おはよ。」

あれから数日経った今日。
伊織から、ハンカチを返したいと連絡がきて、事務所の会議室で待ち合わせた。

「これ、ありがとう。」

綺麗に畳まれたハンカチと、
伊織に何か貸すと必ず付いてくる入浴剤。

彼女らしいな、と思う。
いつも通りの律儀すぎる伊織。
だけど、何かが違っていて。
その違和感に、思わず伊織の手首を掴む。

「伊織」

「...」

「わかんないよ...」

「...」

「こんなにずっと一緒にいるのに、伊織が何考えてるのか全然分かんない...シンメなのにさ、」

「...ごめん、蘭。」

この手を離したら伊織がもう一生戻ってこないんじゃないか。もう、会えないんじゃないか。

「...わかった、ちゃんと話す。話すから、ね?
痛いよ、蘭。...蘭ちゃん?」

「...うん。」

「らーん、手離して?座ろ」

「いなくならない?」

「...私はここにいるよ。」

手を離して、隣り合った椅子に座る。

「...昔、ちょっとね、病気しててさ」

「...え?」

「また、だって。」

嫌だ。聞きたくない。
私のそんな思いを他所に、伊織は続ける。

「2年はないって、先生に言われちゃった。」

「...伊織、」

「言えなくて、ごめん。」

「伊織」

おかしい。
目が合わない。

「ごめんね?蘭。今まで、楽しかった」

「伊織!」

「...」

「アイドル、もう辞めたい?」

「...」

「やろうよ、これからも。」

「...迷惑、かける、から」

「迷惑なんかじゃない。」

「だって、私、」

「いなくなる方が迷惑。ほんっとに、もう一生会えないかと思った...」

ぎゅっと、正面から伊織を抱きしめる。
大事なメンバーを、唯一のシンメを、もう絶対に離さないように。

「私、ここにいたい...このグループで、これからもアイドルがしたい...っ」