口説いてんの?


「あぁ」

薫子は、触れてはいけない場所を

突いてしまったらしい。

俊也の表情は曇り、固く唇を結んでいる。

薫子は、チラチラと目線を動かし

俊也の表情を窺っていた。

「前の恋を忘れるには、新しい恋」

「何言ってんの?」

「あれは嘘だな?!余計比べてしまう。

 ああだった。アイツならこうする、って。

 忘れるどころか思い出すよ」

「なんの話してんの?」

俊也は、捏ねていたパン生地を

勢いよく作業台に落とした。

バンッ!と大きな音がしたので

薫子は背筋がゾクゾクして、睫を震わせた。

「お前だよっ!」

俊也は大きな声を出し

薫子を睨んで唇を噛みしめた。

「私・・・何かした?」

薫子は恐る恐る尋ねた。