俺は、薫さんの家から歩いて帰っていた。

平日の朝、こんな所を歩いている人は

あまりいない。

見慣れない景色なのに

心惹かれる物は何も目に入らなかった。

ただ、薫さんの怯えた顔だけが

目の前をちらついている。

どうして?

キスしてくれたのに・・・

好きって言ってくれたじゃないですか?

あれは夢だったんだろうか。

いや、俺の唇が覚えている。

俺の心臓が破けてしまうと思ったくらい

高鳴っていた。

なのに、俺は酷い事を言ってしまった。

薫さんの最後の言葉も突き放した。

まだ、言えないことってなんだろう。

ちゃんと話を訊いてあげていたら

何か違っていたのだろうか。

今更考えても遅いかぁ。

俺は、悔しさを拳で握り潰していた。