第1話 – 9ページ目:夜と隠された心
午前1時23分。
家は深い静けさに包まれていた。
ミヤは窓辺のソファに座っていた。膝を抱え、頬を手のひらに預けている。
灯りはすべて消されていた。
月明かりだけがカーテンの隙間から差し込み、白い絨毯の上に静かに広がっている。
彼女の視線は、街へと向かっていた。
無数の光…闇の中で輝いている。
そっと、唇が動いた。
「人は…本当は何を思って生きてるんだろう。」
今日…いや、もう昨日か。
自分でもわからなくなっていた。
すべてが頭の中で巡っている。
廊下…
あの言葉…
あの眼差し…
何度も何度も繰り返される映画のように。
彼女は思う。
「私…いつからこんなふうになったんだろう。」
幼い日々を思い出す。
父はいつも仕事だった。
母はいつもパーティーだった。
使用人たちはいつも同じことだけを言った。
「お嬢様、勉強の時間ですよ。」
一緒に遊んでくれる人はいなかった。
泣いたときに抱きしめてくれる人もいなかった。
七歳のとき…
ひとつ、人形を買ってもらった。
たった一人の友達だった。
ある夜、それは消えた。
誰も探そうとしなかった。
あの夜から…
彼女はもう、何に対しても泣かなかった。
静かに、自分に言い聞かせる。
「わかったから…泣いても、誰も来ないって。」
しかし、今日――
あの青年が…
皆の前で言った。
「中身がゼロだ」
それなのに…
彼の眼差しには…
侮蔑もなかった。
憐れみもなかった。
それは、ミヤが知らない何かだった。
曇った窓の向こうから彼が見つめたとき…
あの眼差しが、もう一度。
ミヤは手を胸に当てた。
心臓が…
奇妙に打っている。
恐怖からじゃない。
怒りからじゃない。
呟く。
「じゃあ、どうして…安心させてくれるの?」
彼女は立ち上がった。
窓に近づく。
冷たいガラスに額を押し当てる。
雨が、また降り始めていた。
雫が窓をゆっくりと伝っていく。
目を閉じる。
「あの眼差し…
どうしてあんなに…優しかったの?」
答えはなかった。
ただ、雨と…静けさだけがそこにあった。
部屋のドアは閉まっている。
誰も来ない。
しかし…何かが変わっていた。
今夜――
何年ぶりかで…
ミヤは、完全には一人ではなかった。
誰も隣にいない。
でも、胸の奥で、何かが灯った。
ひとつの名前。
ひとつの横顔。
ひとつの眼差し。
闇の中の小さなろうそくのように。
そっと、彼女は言った。
「誰かが…いつも強くなきゃいけないって、言ってくれた気がする。」
涙が、まぶたの奥に熱く広がる…
しかし、零れはしなかった。
ただ、雨を見つめ続けた。
カフェ――
イロはまだ起きていた。
カウンターに腰掛け、ノートに何かを書きつづけている。
小さな灯りだけが、ページの上に落ちている。
彼は書いた。
雨の夜
震える肩は
何を待つ
ペンを置く。
窓の外を見る。
思う。
今、彼女はどこにいる?
何をしている?
誰か、話し相手はいるのか?
誰か、抱きしめてくれる人はいるのか?
答えはなかった…
しかし、胸の奥で、ひとつの声がした。
「もう一度、会いたい。」
