第1話 – 13ページ目:静かな帰り道
午後9時47分。
街はまだ明るかった。
ネオンは瞬き、ショーウィンドウは光を放っている…しかし、人々の喧騒は次第に遠ざかり、街は静かに息づき始めていた。
ミヤはゆっくりと歩いていた。
彼女の足音が歩道に響く…しかし、その心の中では、ただ一言だけが繰り返されていた。
「過去は、いつまでも消えない。でも、どうするかは自分次第だ――傷のままで持つのか、それとも…意味を見つけるのか。」
彼女はコートのポケットに手を入れた。
小さな紙片を指先でなぞる。
イロが書いてくれた、あの紙片だ。
まだ持っていた…なぜかはわからなかった。
しかし、これはただの紙切れではないと感じていた。まるで、自分の一部がそこに残されているかのように。
家の門の前で立ち止まる。
家の明かりが――いつもよりずっと明るく感じられた。
胸が締め付けられた。
母が玄関に立っていた。
腕を組み、顔色は青ざめ…その瞳には、ミヤがよく知るものがあった。
心配。
「ミヤ! 今何時だと思ってるの?」
声は大きかった…しかし、その奥には震えがあった。
ミヤは理解した。
深く息を吸う。
「ごめんなさい、お母さん…ちょっと外の空気を吸いたくて。」
母は彼女を見つめた。顔だけではなく…目を、静かな手を、わずかに落ちた肩を。
そして、静かに言った。
「外に出るのが怖いわけじゃないの。」
間。
声が柔らかくなる。
「怖いのは…あなたが私から離れていくこと。」
ミヤはしばらく沈黙していた。そして、前に進み出て――母を抱きしめた。
母は一瞬、硬直した…そして、ミヤの髪に手を置いた。幼い頃のように。
そっと尋ねた。
「何を探してるの?」
ミヤは母の肩に顔をうずめた。いつもの香水の香りがした。
「わからない…でも、何かがある気がする。」
母は、そっとため息をついた。そよ風のように。
「時々ね…探しているものは、外にはないこともあるのよ。」
ミヤは微笑んだ。小さな、けれど疲れた、しかし確かな笑顔だった。
「でも今日は…何かを見つけた気がする。」
間を置いて。
「温かいもの。」
母は何も言わなかった。ただ、彼女をより強く抱きしめた。
ミヤは階段を上がり、自室へと向かった。
カーテンを開ける。
街が眼下に広がっていた。無数の灯り…無数の命…
彼女はポケットに手を入れた。紙片を取り出す。
机の上に置く。
しばらくの間、ただそれを見つめていた。イロの文字を…心に残った言葉を。
そっと、呟いた。
「イロ…」
ベッドに腰かける。
紙片を見つめる…
雨を見つめる…
窓の上で踊る光を見つめる…
そして、何年ぶりかで――
笑った。
習慣ではなく…
誇りではなく…
心の底から。
