乃々の貸別荘の話






 来た時と同じ格好で、乃々は別荘モリノの庭へ出た。

 外はまだ暑く、ジリジリと容赦なく陽が照っている。

 芝生にしゃがみこんで母親を待つ乃々に、後ろから、蒼空が歩いてきた。

 ぽすり、と片手で被せられた麦わら帽子で、乃々は前が見えなくなった。



「明日僕も出発。」



 蒼空が言った。




「お前約束忘れてないだろうな?」

「うん。今日までなんか夢みたい。」




 乃々は俯いて答えた。




「帰ったら僕がすぐバス調べて行くから、ちゃんと待ってろよ。」

「うん。」

「浮気したら怒るからな。」

「うん。」




 泣かないと思っていたのに、やっぱり乃々は立ち上がって泣き出した。



「すぐ会えるったら。」



 蒼空が言った。



 蒼空の唇がまぶたに触れて、一瞬温かい感覚があった 。




 ────同じ夏は2度と戻ってこない。