さすがに、これはない。
頭が真っ白になる。
なのに、私の横の彼は、すっかり溜飲を下ろしていた。
「ウゼェ……どうすんだよ、こんなところでケガなんかしてんじゃねぇよ。さっさと拭けよ。レンタカーだぞ」
いやいや。
「早くナビれよ。ガソリンがねぇんだよ」
いや、なんで。
「チッ……電波ねぇ。おい」
おかしいだろ。
「病院いかなきゃ」
「あ?」
「多分、結構まずいと思う。このケガ」
暴力なんて日常茶飯事だ。今に始まったことじゃない。
最初は平手打ちだったのが、拳になった。
見えない場所の痣が、顔や腕、お構いなしになった。
エスカレートしていることは分かってた。
けれど、彼の言うように原因は自分にもある。
普段は優しいところもあるし、怒らせた私が悪い。
私だってもう、ずいぶんと麻痺してしまっていたんだろう。
――だけど。
沸点は突然、理由なく訪れる。
「別れよ」
「あ?」
「このままだといつか死んじゃうんだと思う」


