けれど男の顔を見て、そんなどうでもいい迷いはふっとんだ。
――なんて、キレイな人だろう。
毛先を遊ばせたハニーブラウンのやわらかい髪。
猫目の大きな瞳を強調する羽のように長いまつ毛。
鼻筋はまっすぐに通っていて、唇のシーラインだって完璧。
ちょうど差し込んだ朝日を雪道が反射して、まるで貴重な美術品にライトアップしているようだ。
「なに?」
ぼうっと見惚れる私に、瑞生は無表情。
怒るでもない、興味があるわけでもない、きっと無関心。
それがちょっと悲しい。
「わ…たし、常盤 加奈子っていいます」
名乗ったところで変わらない態度は、ついさっきそこですれ違っただけの知らない人間に対する態度だ。
どうする?
私のどんなことから伝えればいい?
「それから…歳は21歳で、高校を卒業してからは酒造メーカーの経理をしてました。で、それで、」
息継ぎのタイミングってこんなに難しかったっけ。
走ってたし、もともと息は上がっていたけれど喉がつっかえて仕方がない。
「あのさ」
「はい」
「聞きたいことがあれば聞くし」
そう言って瑞生は私に背中を向けて「今は歩けば?」と、再び歩き出す。
