男は「そうですか」とだけ返し、話すだけ無駄だということを理解した、って風に死んだ魚のような目を向けている。
「お前、名前は」
「瑞生」
「あんま目立つなよ。消すぞ」
ひんやりと冷たいものが背筋を這う感覚がする。
紫藤怜……この男は何者?
異論を認めないという責任問題は、私の問題そのもので。
「っつーことだ」
そうこちらを振り返られても、素直に「ありがとうございます」なんて言えない。
どうも私は瑞生と名乗ったこの男に引き取られるらしい。
瑞生に拒否する権利がないのだから、私の選択肢も無いに等しい。
返事に困る。
ここは、なんて答えるのが正解?
誰に配慮をするのが正解?
「おいて行かれるぞ」
考えている内に、瑞生はもう車から離れていた。
「え、あの、」
「お前は運は悪いが、悪運は強い」
それはいいことなのだろうか。
いい加減行け、と背中を押される。
おぼつかない足で車を降りると、ストッキング一枚の足に雪の冷たさが刺さる。
ピーと自動開閉音と共に、車のスライドドアが閉じる。
「…あ、ありがとうござ……」いました。
ピタリと閉じたドア。
御礼の一つも言えないなんて、どんくさすぎるでしょ……。
