車には運転手と2人きり。
盗み見るようにバックミラーを見ると、やっぱり目が合った。
さっきの男もこの人も妙な威圧感がある。
緊張、する。
さっと目を反らすと、物音と一緒に車が揺れた。
なんだ、と顔を上げると、運転席から身を乗り出してきた男 。
こちらへ飛び移ってきたから、驚いた。
「え」、と静止している間に、男はさらに三列シートの後部座席に手を伸ばし、布でできた黒い箱を手にして私の隣に着席する。
「もともと、約束があった」
やくそく・・?
なんの話?
「紫藤 怜」
「しどう、りょう?」
「ああ」
「それってあなたの名前?」
「いや。俺は多夜」
ぽつり、ぽつり、とこぼれる話。
この人は多夜さん。
さっき出て行った男が紫藤さん。
足りなすぎる言葉をゆっくり整理していると、多夜さんは黒い箱から消毒液を取り出した。
どうやら手当をしてくれるらしい。
