オレンジじゃない夕方




 
 
 学校は8時半から始まる。
 朝の自習時間があって、私はいつもその時間を読書に当てている。

 翌朝学校へ行くと敬がもう隣の席に着いていた。

 敬は机で教科書をパラパラ捲っている所だった。

 引き出しに荷物を仕舞っていると、さらさらの黒い髪の下の黒い目が、ちら、と動いてこっちを見た。


 ロッカーに鞄を置いてから、私は筆箱を出した。


 何気なく黒板を見やると、白い字で、日直の名前が端っこに書かれている。


 出し抜けに敬が聞いた。
 昨日の事は聞かずに。
 本屋で運命的な偶然に導かれて出会ったのなんて忘れた様に。


「原さん、空見上げたりする?」

「……何で?」


 敬はいつもの爽やかな顔で答えた。


「別に。」


 ちょっと困った顔をしていたと思われる私は、考えてから答えた。


「見るよ。」

「そう。」


 敬は頷いた。

 それから言った。


「昨日の夜は月が綺麗に見えたよ。満月だったんだ。原さんて、なんか、明るい月のイメージ。」


 目をパチクリした私を無視して、敬は教科書をまた捲り始めた。

 私は平静を装って、引き出しから朝の読書の小説を取り出した。
 と、机に置く前に取り落として、本は表紙を裏返しに敬の机の下へ滑り込んだ。



「あーあ」


 敬は腕を伸ばして本を拾い上げると、机に置いてパラパラと捲った。


 
「なんの話?」

「普通の小説。」

「推理もの?学園もの?家族もの?」

「家族ものに恋愛が少し入ってる」

「ふーん」



 敬は小説をぱたんと閉じた。
 私に手渡すとふっと微笑んで言った。


 
「文学少女。」

「ま、まあね。」



 たじろいだ私に、敬はクスクス笑いながら、なぜか、

 
「頑張ってね」


 と言った。