オレンジじゃない夕方





 本屋に着くと、中は暖かかった。
 外が寒かったのでつめたい指先を意識しながら、私は新刊の小説のコーナーへ向かった。


 新刊のコーナーには、様々な文芸書が平積みされていた。
 見るともなくそれらを見ていると、後ろから肩を叩かれた。


「原さん」


 そう呼ばれて振り向くと敬の黒い目がこっちを見ていた。
 私と同じく学校からそのまま来たという、制服姿の敬は鞄を肩に掛けて持って立っていた。
 向き直ると敬の方が私より少し背が高くて、私はそこで一瞬意識しない方が良い性差を意識した。


「敬。買い物?」

「うん。家用の問題集買いに来たんだ。原さんは?」

「私は新刊、予約してたやつ取りに」

「ふーん。」



 敬は目を落として、私が見ていた新刊の並びを見やった。


「こういう所でばったり会うと、本と僕らと巡り合わせを感じるね」


 敬が言った。

 
「学生だから書物で繋がるのかも。共通点が本なのも学生らしい。原さんは小説だけど。面白い。」 


 私が答えずに居ると、敬は手に持っていた本屋の紙袋を掲げて見せた。


「じゃ」


 敬は言った。
 
 暗くなった外を映す透明な自動ドアに敬の背中が吸い込まれていくのを、私は黙ったまま見ていた。