「原さん」
ある放課後。
教室を出ようとすると、ロッカーの前で、右腕を掴まれた。
教室には誰もいなかった。
ただ窓から吹く風でカーテンのそよぐ音がしていた。
「どうして無視するの?」
「……」
腕を掴んだまま敬が聞いた。
私が黙っていると、敬が口を開いた。
「だって、意地悪いと思った。」
「何が?」
「図書室使って、浅井とデート。よりにも寄って図書室で。」
「……」
「図書委員は僕だよ。君のためになったのに。」
「何が言いたいの?」
「何が、っていうか、謝りたいのかも。言ったこと。」
「……」
「どうしてかっていうと嫌だから。原さんが浅井とちゃらつくのが。気に食わないから。そっちこそ謝ったらどう?。ねえ、」
思いの外強い力で引き寄せられて、敬が目を閉じたのが最後に見えた。
唇を離すと敬が言った。
「ごめんね?」

