オレンジじゃない夕方






 放課後なんとなく教室に一人で残っていると、ガラガラと戸を開けて、誰かが入って来た。


「あ」


 入って来たのはこの間の浅井くんで、浅井くんは、今日もプリントの束を持っていた。

 浅井くんが口を開いた。


「原。この間はありがとう」

「別に」


 喋る気がなかった私の席まで、プリントを持った浅井くんが来た。


「原って前教科係だったよね。知ってた。真面目に仕事してるの」

「成績付くから」

「確かに。今日は」



 浅井くんは言葉を切ってプリントの束を私の机に置いた。


「出席番号順に並べてくれってさ。2種」 

「ふーん」

「手伝ってくれる?」



 何かを意識した訳でもないのに、甘いマスクで優しくそう尋ねられて、というフレーズが私の頭に浮かんだ。


「良いよ」


 私が鞄を脇に置くと、浅井くんは勝手に私の前の席に座った。



 無言でプリントを並べ直していると、廊下からまた一組カップルがやって来た。


「修!何してんの」


 手を繋ぎあった男子の方が廊下の窓から浅井くんに声を掛けた。


「雑用。」

「ふーん、ガンバ。」


 カップルは行ってしまった。


「良いね、みんな青春してて」


 浅井くんがそう切り出した。


「原は付き合ってる人居ないの?」

「居ないよ」

「ふーん。片思いね。」


 浅井くんはひとりごちると出席番号を確認しながら言った。

 
「僕が恋すると浅い恋愛中になっちゃうんだ。」


 私が目を瞬くと、浅井くんが言った。

 
「名字が浅井。」


 噴き出した私に、浅井くんは怒り笑いした。

 
「笑うな。修が名前。逆に深く恋すればいいでしょうとか言われて。」

「そっか」
 
「笑わないでよ。誰か人を好きになるたび悩むんだから。」


 そう言って小さくため息をついた浅井くんは言った。


「嘘嘘、悩んでない。ただどうかと思う。」


 私が何か言う前にニコっと笑って付け足した。


「やっぱ恋愛は深くなきゃね。」