傘をさして通学路の歩道を歩いていると、急に後ろから青い車が来て私の隣に乗り付けたので、私は一瞬身構えた。
車のドアが開くと、見慣れた形の良い黒い目。
「雨。」
敬が言った。
「雨。聞こえなかった?」
急かされて私は言われるままに車に乗り込んだ。
敬がタオルを取って寄越した。
「タオル。髪濡れてる。制服も。良かったここ通って。」
「あなたが原さん?」
運転席から、髪の長い綺麗な女の人が振り返った。
「ええ、はい」
「敬からいつも聞いてるわよ。可愛い読書家の女の子が居るって。敬はいつも、あなたのこと気にしてる。」
「姉さん、黙って。」
「はいはい。」
敬のお姉さんが言った。
「家の場所知ってるわ。なんで知ってるか、あなた気にした方が良いみたい。」
「たまたま知ってて教えた。」
敬が仏頂面で言った。
「大人しいのね。喋らない。」
「原さんはいつもそう。誰かさんがお喋りなだけ。」
敬のお姉さんはもう一度振り返った。
「暗いよ。何か喋ろうよ。」
私は思わず謝った。
「ごめんなさい。」
「好きな食べ物は?」
「原さんの好きな食べ物は苺。」
「趣味は?」
「読書。空写真を集めてる。」
「あなたに聞いてないのに。まったくもう。」
敬が運転席の背もたれを触りながら言った。
「ごめんね、姉さんこういう人で。」
自宅の前まで車を乗り付けてから、敬のお姉さんに私は小さいカードを手渡された。
「私のケータイ番号。何かあったら連絡して。」
車を降りると、敬が窓から手を振った。
「また学校で。」


