オレンジじゃない夕方






  図書委員の仕事は水曜日ごとに回ってきた。
 1週間に1回、私は敬と二人で、図書室のカウンターに座る。


 私がテーブル上に本を出すと、敬がそれを見て言った。


  
「本当の小説読み。面白いの?」

「うん」 

「ふーん。僕にはわかんないけど。」


 それから思い出した様に言った。

 
「原さん、今日返ってきた数学何点だった?」
 
「……10点。言わないで。」
 
「駄目じゃん。」


 
 敬は噴き出した。それから聞いた。


 
「文系?」

「文系」

「ふーん。新しいことについて聞くと新しい発見があるな。原さんは完璧少女じゃないんだね。」


 にっこり笑うと茶化した。

 
「がっかり。もう聞かない。」



 しばらく本を読んでいると、敬が席を立った。
 私がカードの整理をしている時に、敬はカウンターに戻って来た。


 顔を上げた私に、ひらり、と敬はプリントを1枚落とした。


 
「凄い、98点」
 
「ケアレスミス。落とした。」


 
 それから言った。

 
「数学の補習プリント、貰ってきたよ」

 
 意味を飲み込むまでに数秒かかった。

 敬が言った。


  
「さて。」
 
「ま、待って、集中できない。」
 
「なんで。」
 
「何でって……何でも。」
 
「僕とだと気が散る?」


 
 頷くと、敬は首を傾げた。

 
「距離明けて座るよ。」
 
「待って、見ないで。」

「何で。文系の数学。期待。」
 
「見ないで。できないの、恥ずかしいから。」

「何で?気にすることないのに。」


 敬が宣言した。
 

「あとで答え合わせします。」


 シャーペンを持ってしばらく問題を解いていると、敬が私を見下ろして、いつもの通りの黒い目で言った。

 
「でも僕原さんが数学できないの好きだな。」

「何で。」
 
「別に。」


 敬はにこっと笑った。一言。


「慰め。」