理科室へ向かうと敬が付いてきた。
ひんやりとした理科室は当然ながら無人で、ガラガラと戸を開けると薄っすらと薬品の匂いがした。
「寒い?」
「ちょっとね」
私が黒板を下に降ろそうとすると、敬が来て代わりにやってくれた。
私達は右と左から黒板を消し始めた。
「汚れてるね」
私が黒板に擦れて粉のついた制服を叩いていると敬が口を開いた。
「青春。理科室で原さんと二人きりになることも。そういやさ。」
敬が口を開いた。
「隣のクラスの……が先輩に振られたんだって。」
「ふーん」
「ふーんでいいの?原さんは、好きな人とか居ないの?」
「居ない」
目が合った。
敬の黒い瞳が、瞬きをして私を見た。
私は黙って上履きのつま先を睨んだ。
「僕と違うね」
口を開いて敬が言った。
「運命的な出会いがあっても、それをキャッチするアンテナがないと、今にてのひらからこぼれ落ちちゃうよ、原さん」
黙っている私に、敬は何故かくすりと笑った。


