里穂の家は、少し高台にある。
だから朝の通学は、
最初だけちょっと楽しい。
「うわっ、気持ちいいー!」
里穂は坂道を一気に駆け下りていく。
春の風が制服を揺らし、
寝ぼけていた頭を少しずつ起こしてくれる。
ペダルを漕がなくても、
自転車はぐんぐん前へ進んだ。
あっという間に坂の下へ到着。
ここから学校までは、
ほとんど平坦な道が続いている。
「さて、と……もうひと踏ん張りいきますか」
里穂はハンドルを握り直し、
ペダルに力を込めた。
その時だった。
「あ、あのっ!」
「え?」
突然、後ろから声をかけられる。
里穂がブレーキをかけて振り返ると、
そこには同じ制服を着た男子生徒が立っていた。
見たことのない顔。
少し息を切らしていて、
どこか困ったような表情をしている。
「え、私?」
「あっ、はい……呼び止めてすみません」
男子生徒は申し訳なさそうに頭を下げた。
「その、道を聞きたくて」
「道?」
「携帯、家に忘れてきちゃって……」
里穂はちらりと時間を確認する。
ギリギリ。
かなりギリギリ。
でも放っておくのも後味が悪い。
「いいよ。どこ行きたいの?」
急ぎたい気持ちを押さえながら聞くと、
男子生徒は少し安心したように口を開いた。
「西ヶ丘高校、行きたいんだけど」
その瞬間。
里穂の動きがぴたりと止まる。
「……え?」
でも次の瞬間には、
ぱっと表情を変えていた。
「乗って!」
「えっ?」
「私も西ヶ丘! だから早く!」
里穂は自転車の荷台をバシバシ叩く。
「ほんと遅刻しそうなの!」
「いや、でも……」
「いいからいいから! 急ぐよ!」
男子生徒は少し戸惑いながらも、
どこか照れたように笑った。
「……じゃあ、お言葉に甘えて」
遠慮がちに荷台へ座る。
その瞬間、
少しだけ自転車が重くなった。
「じゃ、飛ばすからちゃんと掴まっててね!」
「え、待っ——」
里穂は勢いよくペダルを踏み込んだ。
春の風が横を抜けていく。
さっきまでひとりだった通学路が、
急に騒がしくなる。
知らない男子を後ろに乗せて登校するなんて。
そんな始業式になるなんて、
だから朝の通学は、
最初だけちょっと楽しい。
「うわっ、気持ちいいー!」
里穂は坂道を一気に駆け下りていく。
春の風が制服を揺らし、
寝ぼけていた頭を少しずつ起こしてくれる。
ペダルを漕がなくても、
自転車はぐんぐん前へ進んだ。
あっという間に坂の下へ到着。
ここから学校までは、
ほとんど平坦な道が続いている。
「さて、と……もうひと踏ん張りいきますか」
里穂はハンドルを握り直し、
ペダルに力を込めた。
その時だった。
「あ、あのっ!」
「え?」
突然、後ろから声をかけられる。
里穂がブレーキをかけて振り返ると、
そこには同じ制服を着た男子生徒が立っていた。
見たことのない顔。
少し息を切らしていて、
どこか困ったような表情をしている。
「え、私?」
「あっ、はい……呼び止めてすみません」
男子生徒は申し訳なさそうに頭を下げた。
「その、道を聞きたくて」
「道?」
「携帯、家に忘れてきちゃって……」
里穂はちらりと時間を確認する。
ギリギリ。
かなりギリギリ。
でも放っておくのも後味が悪い。
「いいよ。どこ行きたいの?」
急ぎたい気持ちを押さえながら聞くと、
男子生徒は少し安心したように口を開いた。
「西ヶ丘高校、行きたいんだけど」
その瞬間。
里穂の動きがぴたりと止まる。
「……え?」
でも次の瞬間には、
ぱっと表情を変えていた。
「乗って!」
「えっ?」
「私も西ヶ丘! だから早く!」
里穂は自転車の荷台をバシバシ叩く。
「ほんと遅刻しそうなの!」
「いや、でも……」
「いいからいいから! 急ぐよ!」
男子生徒は少し戸惑いながらも、
どこか照れたように笑った。
「……じゃあ、お言葉に甘えて」
遠慮がちに荷台へ座る。
その瞬間、
少しだけ自転車が重くなった。
「じゃ、飛ばすからちゃんと掴まっててね!」
「え、待っ——」
里穂は勢いよくペダルを踏み込んだ。
春の風が横を抜けていく。
さっきまでひとりだった通学路が、
急に騒がしくなる。
知らない男子を後ろに乗せて登校するなんて。
そんな始業式になるなんて、

