アオハル×フラグ=恋。

「りほ! 起きなさい!」

一階から聞こえてくる母親の声。

里穂は布団に顔を埋めたまま、もごもごと返事をする。

「ん……んー……」


カーテンの隙間から、やわらかい朝日が差し込んでた。

窓の外では鳥の鳴き声。
春の匂いを含んだ風が、少しだけカーテンを揺らしている。

――完璧な朝だった。

だからこそ。

里穂は、完全に油断していた。


ぼんやりしたまま、枕元のスマホを手に取る。

画面を見た瞬間。

「うわぁぁぁぁっ!!?」


飛び起きた。
「やばっ、やばいやばいやばい!! 遅刻する!!」


ベッドから転げ落ちそうになりながら立ち上がり、慌てて制服を探す。

今日から新学期。
しかも始業式。

遅刻なんてしたら最悪だ。


里穂は髪をぼさぼさのまま、バタバタと階段を駆け下りた。

「お母さん! なんでもっとちゃんと起こしてくれなかったの!?」

「お母さんは三回起こしました!」

「うそ! 二回しか記憶ない!」

「三回です!」

「二回!」

「三回!」


里穂は洗面所へ滑り込む。

鏡の中には、寝癖で大爆発している自分。

「終わった……」

そう呟きながら、適当に手ぐしで押さえつける。

もちろん直る気配はない。


歯ブラシを咥えたまま時計を見る。

家を出る予定時刻を、すでに五分過ぎていた。

「んんっ!!」

里穂は慌てて歯を磨く速度を上げる。


「朝ごはんはー?」

キッチンから母親の声。

「いらなーい!」

「あとでお腹空くよー!」

「その時はその時ー!」


歯磨きを終わらせると、里穂は再び二階へ駆け上がった。

その足音を聞きながら、リビングでは父親がコーヒーを口に運ぶ。

里穂父「母さんも高校の頃、あんな感じだったっけ?」

里穂母「そんなわけないでしょ」

即答だった。

里穂母「そういうの、一番よく知ってるでしょ。あなたが」

里穂父「……まあ、確かに」

父親は苦笑しながら肩をすくめる。

その時。

またドタドタと騒がしい足音が聞こえてきた。

制服姿になった里穂が、慌ただしく玄関へ向かっていく。

「いってきまーす!!」

里穂母「はいはい、気をつけてね!」

里穂父「転ぶなよー」

「子どもじゃないしー!」


ガチャッ、と勢いよく玄関が開く。

春の風がふわりと吹き込んだ。


里穂は急いで自転車にまたがる。

スマホの時計を確認。

――まだ、ギリギリ間に合う。

「よしっ」


ペダルを強く踏み込む。

始業式の朝。

まだ何も始まっていないはずの新学期は、

もうすでに、騒がしく動き始めていた。