優しく吹き抜ける春の風が、校門の桜の蕾をそっと揺らしていた。
卒業式が終わったばかりの、夕暮れの放課後。
賑やかだった校庭から少し離れた、いつもの帰り道にあるロータリーのベンチに、私と翼は2人で並んで座っていた。
翼の胸元には、もう第二ボタンがなかった。式が終わった直後、下級生の女の子たちに囲まれて、せがまれるままにあげてしまったらしい。
「あーあ、制服のボタン、全部なくなっちゃって。翼、相変わらずモテモテだね」
私はわざとケラケラと笑って、彼の少し寂しくなった胸元を指差してみせる。
いつものように、完璧な「ただの友達」の仮面を被って。
「うるせぇよ。あんなの、ただの記念だって。……それより、アミ」
翼は私の言葉を軽くあしらうと、ふっと真面目な顔になって、自分の通学カバンのファスナーに手をかけた。
そこに揺れていたのは、小さな、少しだけ色褪せた銀色のキーホルダーだった。
それは、私たちが小学生の頃、初めて2人で遠出して、道に迷いそうになりながら一緒にお揃いで買った安物の宝物。
「お前、これ……まだ持ってるか?」
翼に言われて、私は自分のカバンのポケットから、全く同じ、少し傷のついた銀色のキーホルダーを取り出してみせる。
2人の手のひらの上で、夕日を浴びた一対の宝物が、静かにキラリと輝いた。
「当たり前じゃん。失くすわけないでしょ」
「……そっか。よかった」
翼は夕日を見つめたまま、低く、どこか愛おしそうに声を震わせた。
「東京に行っても、このキーホルダーを見るたびに思い出す。俺にとって世界で一番特別なのは、アミ、お前だけだ」
その言葉の温かさに、私の胸の奥が、ぎゅっと張り裂けそうなくらい痛くなる。
(翼、私もだよ。私も、世界で一番、あなたのことを愛してる――)
卒業式が終わったばかりの、夕暮れの放課後。
賑やかだった校庭から少し離れた、いつもの帰り道にあるロータリーのベンチに、私と翼は2人で並んで座っていた。
翼の胸元には、もう第二ボタンがなかった。式が終わった直後、下級生の女の子たちに囲まれて、せがまれるままにあげてしまったらしい。
「あーあ、制服のボタン、全部なくなっちゃって。翼、相変わらずモテモテだね」
私はわざとケラケラと笑って、彼の少し寂しくなった胸元を指差してみせる。
いつものように、完璧な「ただの友達」の仮面を被って。
「うるせぇよ。あんなの、ただの記念だって。……それより、アミ」
翼は私の言葉を軽くあしらうと、ふっと真面目な顔になって、自分の通学カバンのファスナーに手をかけた。
そこに揺れていたのは、小さな、少しだけ色褪せた銀色のキーホルダーだった。
それは、私たちが小学生の頃、初めて2人で遠出して、道に迷いそうになりながら一緒にお揃いで買った安物の宝物。
「お前、これ……まだ持ってるか?」
翼に言われて、私は自分のカバンのポケットから、全く同じ、少し傷のついた銀色のキーホルダーを取り出してみせる。
2人の手のひらの上で、夕日を浴びた一対の宝物が、静かにキラリと輝いた。
「当たり前じゃん。失くすわけないでしょ」
「……そっか。よかった」
翼は夕日を見つめたまま、低く、どこか愛おしそうに声を震わせた。
「東京に行っても、このキーホルダーを見るたびに思い出す。俺にとって世界で一番特別なのは、アミ、お前だけだ」
その言葉の温かさに、私の胸の奥が、ぎゅっと張り裂けそうなくらい痛くなる。
(翼、私もだよ。私も、世界で一番、あなたのことを愛してる――)
