ミドサーですが、うっかり恋に堕ちまして

後日談 高柳side


朝、スタッフステーションへ入ると、田辺さんがこちらをじっと見てくる。

「おはようございます、高柳先生」
「おはようございます」
「……あれ?」

 彼女の視線は俺の左手に注がれる。

それから"違和感"に気付いたらしく首を傾げた。

「……ああっ‼︎ 先生、指輪してる‼︎」

「あ、気付いちゃいました?」

 そう返した瞬間、周囲の看護師たちが一斉に集まってくる。

「なになに?」

「指輪だってー」

「高柳先生が?」

 ーーおっと、思った以上に騒ぎになっちゃったな……。

引っ込みがつかなくなったので、俺は左手を軽く持ち上げた。

「婚約しました」

 シン、と静まり返る。

その三秒後に、「えええええっ!?」とどよめきが起こる。

予想以上の反応に思わず笑ってしまう。

「ついにプロポーズしたんですか!」

 (……ついに、ってどういう意味だ?)

俺たちはそんなに分かりやすかったのだろうか。

「写真とかあります!?」

「ありますよ」

「見たーい!」

 俺はスマホを取り出す。

プロポーズをした海で撮った真夏さんとの写真。

指輪をはめて微笑む彼女がとびきり可愛い。

俺のお気に入りの一枚。

「見せて大丈夫なんですか? 許可取ってます?」

 田辺さんはなぜか、俺に疑いの目を向けてくる。

「うん、みんなに報告しようって話になってるから大丈夫」

 プロポーズ後に、彼女と話し合って決めた。みんなに公表しようって。

「じゃあ、大丈夫ですね」

 田辺さんは俺のスマホを手に取るとそのままフリーズしてしまう。

「田辺さん、どうかした?」

「……主任が幸せそうで、泣きそう」

 その時だった。

「おはようございまーす」

 真夏さんが出勤してくると全員が一斉に振り返る。

「……え、なに? みんなどうしたの?」

 田辺さんが興奮気味に口を開く。

「浅川主任! ついに婚約したんですね‼︎ 高柳先生から聞きました!」

 真夏さんは「もう話したの?」とでも言いたげに俺を見た。

こくりと頷く。

「そうなの。わたしたち、結婚することになりました」

彼女の口から語られるのを聞いて俺はこの結婚が夢じゃないのだと改めて噛み締める。

「おめでとうございます、主任!」

 みんなが口々に祝福の言葉をくれる。

「おふたりのこと、いつ教えてもらえるのかなって、私たちずっと待ってたんですよ!」

 田辺さんの言葉にみんな、うんうんと頷く。俺はポカンと口を開けた。

「……え、ちょっと待って。ずっとって?」

「付き合い始めの頃からですね」

 俺たちは顔を見合わせる。

「隠してたつもりかもしれませんが、おふたりとも、幸せオーラがダダ漏れなんですもん」

 上手く隠せていたと思っていたのは俺たちだけだったらしい。

「参ったなぁ、ねぇ、真夏さ……」

「……ていうか、高柳先生」

 真夏さんが俺を小突く。

「なんですか?」

「どうして話しちゃったんですか?」

「どうしてって、聞かれたので話しました。ダメでした?」

 婚約したことは隠さずに伝えようとふたりで決めた瞬間から、誰かに伝えたくて仕方なかった。

でも、確かに突っ走りすぎたかも。

「ダメじゃないど……こういう事はふたり一緒に伝えるものでしょ?」

「ですよね、嬉しくてつい」

「しかも、朝イチなんて」

 それは俺も思った。

「ごめんなさい」

 間髪入れずに謝ると笑いが起こる。

「先生、もう尻に敷かれてるんですね」

「さすが浅川主任! 先生にも容赦なくてウケる」

 同僚たちに揶揄われ、真夏さんは顔を真っ赤にしながら俺を睨んでいた。

そんな顔まで可愛いと思ってしまう。

惚気と言われても気にしない。それどころか毎日でも惚気たいくらいだ。

「はいみんな!」

 真夏さんがパン、と手を叩く。

「八時半だよ〜仕事仕事!」

 その声を合図にみんなそれぞれの持ち場に着く。

「俺も仕事しよ」

「そうですよ、頑張ってください! 高柳先生」

「浅川主任もね」

 病院で働く毎日は忙しい。

つらいことも、苦しいこともたくさんある。

それでも、この場所で真夏さんと出会えた。

尊敬できる仲間に恵まれた。

そして今日、こんなにも温かく祝福してもらえた。

──外科医としても、一人の男としても。

俺はこれから先、何度でも思うだろう。

真夏さんに出会えてよかった、と。