ミドサーですが、うっかり恋に堕ちまして

 付き合い始めて三か月。

私たちは一緒に暮らし始めた。

当初はぎこちなかった休日も、今では洗濯物を畳む私の向かいで遥が医学雑誌を読むのが当たり前になっている。

派手なデートもしないし、高級ディナーも行かない。それでいいと私が言った。

遥はデートプランをあれこれ考えてくれていたようだけど、

月の半分以上は夜勤や当直ですれ違いだからこそ、のんびりと過ごす今のこの生活がちょうどいい。

「コーヒー淹れるけど真夏さんも飲む?」

 雑誌をパタンと閉じて遥が立ち上がる。

「あ、うん。ちょうど飲みたいと思ってたの。私やろっか?」

「いいよ、俺がやる」

「じゃあ、お願いします」

 遠慮も見栄も張らず、素直に甘えられる。

遥の前では、そんな自分でいられた。

 しばらくしてコーヒーのいい香りが漂ってくる。

お揃いで買ったマグカップを持って遥が戻ってきた。

「熱いから気をつけてね。……そうだ、真夏さん」

「なに?」

「来月のシフト出た?」

 言いながら、向かいの椅子に座る。

「出たよ」

「十五日空いてる?」

「ちょっと待ってね」

 スマホを確認するとちょうど公休日。特に予定もない。

「空いてるよ。なになにデートのお誘い?」

「うん、まあ」

「久しぶりに温泉とか?」

「それも考えたけど……」

 遥は言葉を選ぶように少しだけ視線を落とす。

「じゃあなに?」

 まさかの別れ話?

愛されていると頭ではちゃんと分かっている。

それでも心のどこかでは、失うことを怖がっている自分がいる。

翔との別れは突然だった。だから余計に受け入れるまで時間がかかってしまった。

期待しすぎずに最悪を想定しておけば、傷つくのは少しで済む。

いつの間にか、それが私の癖になっていた。

「……真夏さん」

 遥はカップをテーブルに置いて、私の隣に座った。そして微かに憂いを帯びた視線を向ける。

「そんな顔しないで」

「そんな顔って?」

「……不安にさせたなら謝ります」

 遥にそう言われてハッとする。

彼のこの顔を見れば、自分がどれだけ愛されているかわかりそうなものなのに。

何も言えず俯いていると、遥が少しだけ距離を詰めた。

「真夏さん」

 優しく名前を呼んで、

それから髪を撫でて、頬をそっと包む。

「でも、まだナイショ」

 遥は人差し指をそっと私の唇に当て、宥めるようにそっと口付けた。