年下エリート外科医に迫られて~ミドサーですが、うっかり恋に堕ちました〜

 
 温泉旅行当日。

待ち合わせは午前九時。駅前のロータリーに着いた私はスマホで時間を確認する。

八時五十分。

――少し早かっただろうか。

 そう思いながら周囲を見渡していると、

「おはようございます」

 と、声が掛かる。

聞き慣れた低い声に振り返り、おもわず息を呑む。

「お、おはようございます」

  今日はネイビーのシャツにサンドベージュのパンツ。

シンプルなのに妙に格好良いのはスタイルがいいからだろう。

「どうかしました?」

「いえ……」

 慌てて視線を逸らす。見惚れていたなんて言えない。

「先生っていつもお洒落ですね」

「今日はデートですから」

 真顔で返される。

「浅川さんも、いつもかわいいです。好きだな」

「え?」

「そういうワンピース」

(やだ、ワンピース⁉︎)

 一瞬、私のことが好きと言ったのかと思ってしまった。

自意識過剰にも程がある。

「ありがとうございます」

 今日の私は白のブラウスにロングスカート。

普段より少しだけ気合いを入れた。

「今日のために買ったんです」

 すると先生はなぜか不意に視線を逸らす。

「行きましょうか」

 少し離れた駐車スペースまで話しながら歩く。先生は私のキャリーケースを待ってくれて、助手席のドアも開けてくれる。

ーーまるで恋人みたい。

 そう思った瞬間、自分で自分に慌てる。

先生は私の荷物を後部座席に乗せ、ほどなくして車が走り出した。

休日の道路は思ったより空いている。流れていく景色を眺めながら、「楽しみですね」と微笑む。

「はい」

 先生も頷く。

横顔が柔らかい。病院では見ない表情だ。

仕事中の真剣な顔ももちろん好きだが、休日の穏やかな先生はもっと素敵だ。

「そういえば、どこへ向かうんですか?」

 全部任せて欲しいと先生が言ってくれたので、私は行き先を知らない。

いわゆるシークレットツアーのような感じだ。

「ああ、それなんですが」

 先生はイタズラっぽく笑う。

「ヒントは、世界遺産のある街です」

 東北自動車道に乗るみたいだし、それなら……、

「群馬県ですか?」

 富岡製糸場はたしか世界遺産に認定されている。有名な温泉地もある。

「さあ、どうでしょう?」

 先生は答えをくれない。そして少し得意げに言う。

「浅川さんに喜んでもらいたかったのでめちゃくちゃ調べて選びました」

忙しい中でたくさん調べてくれたのだと思うと心が温かくなってくる。

「どこだろう? すごくワクワクしてきました!」

 行き先を自分で決めるのもいいけれど、誰かに委ねる旅も楽しい。