ミドサーですが、うっかり恋に堕ちまして



*高柳side

 シャワーを浴びても、頭の熱はまるで冷めなかった。

 タオルで髪を拭きながらため息を吐く。

(落ち着け、俺)

 花火大会で再会した時からずっと熱に浮かされているようだ。

 しかも、浅川さんの無自覚な発言の数々に翻弄されまくっている。

ーー思い出すだけで駄目だ。顔が熱くなる。

三十二歳にもなって何をやっているんだろうと情けなくなった。

念入りに髪と体を洗う。別に何かを期待しているわけじゃないのだと、誰に聞かせるでもない言い訳をぐるぐると考える。

ようやく髪を乾かし終えて浴室を出る。

「浅川さん?」

 ベッドに座っている彼女に声を掛けたが返事がない。

近づいて、思わず立ち尽くす。

「寝てる……」

 ヘッドボードにもたれるようにして静かに寝息を立てていた。

 どうやら待っているうちに眠ってしまったらしい。

「……そりゃそうか」

 彼女は夜勤明けだ。

しかも昼間はほとんど寝ずに準備をしてくれたのだろう。

さらに夏の暑さに、花火大会の人混み。慣れない浴衣で足を痛めて、雨にまで降られて……疲れていないわけがない。

安心しきった顔に緩んだ唇。ノーメイクで髪を下ろしていると普段よりずっと幼く見える。


無防備に寝ている姿を見て、

(かわいいな……)

 そう思った瞬間、自分で自分を殴りたくなった。

何を考えているんだ。

ーーでも、目が離せない。

 しばらくその場に立ち尽くしていたが、我に返る。

このままにはしておけない。

「浅川さん」

 小さく呼んでみる。でも起きない。

「浅川さん」

 もう一度呼ぶがやっぱり起きなかった。

完全に熟睡している。

俺は雑念を振り払うように息を吐いた。

「失礼します」

 聞こえていないだろうけど、一応断りを入れる。

肩に手を添え体を支えながらベッドへ横に寝かせる。

それでも起きる気配はない。安心したような顔のまま眠っている。

掛け布団を引き寄せて肩まで掛ける。

「……無防備すぎるんだよな」

 思わずため息を吐く。

裏を返せば俺を信頼してくれていると言うことなのだろう。

少しは警戒してもらいたかった。

理性を保つのがやっとだ。

 部屋の照明を落とす。

 ベッドから距離を取るようにソファへ腰を下ろした。

今日はもう休もう。寝てしまおう。

俺も相当疲れている。

それなのに、視界の端に映る彼女が気になって仕方がない。

「……寝れるわけないだろ、こんなの」

 天井を見上げながら呟く。長い長い夜が始まる。