ミドサーですが、うっかり恋に堕ちまして



 雨脚は強まる一方だった。

 フロントガラスを叩く雨音が車内まで響いてくる。

 ワイパーは激しく左右に動いているのに、視界は白く霞んだまま。

 高柳先生は側道に車を止めスマホの画面を見つめながら小さく息を吐く。

「参ったな……」

「ホテル、見つかりませんか?」

 私が聞くと、先生は困ったように眉を下げる。

「ビジネスホテルは全部埋まってますね」

「やっぱり花火大会だからでしょうか?」

「たぶん」

 考える事は同じという事だ。

 あてもなく車は海沿いの道から外れ、静かな側道へ入った。

 しばらく走ったところで先生が速度を落とす。

私は何気なく窓の外を見て固まった。

「あ……」

 視界に飛び込んできた大きな建物。

派手な照明にどこか非日常的な外観。高い外壁。

先生も気付いたらしい。

数秒の沈黙の後咳払いをする。

「その……ここじゃ嫌ですよね」

 先生の方が私以上に気まずそうな顔をしていて、思わず笑いそうになる。

「別のホテルを探します」

 すぐにそう言ってハンドルへ手を掛ける。

「待ってください」

 私は窓の外へ目を向けた。

土砂降りの中これ以上車を走らせるのは危険だ。

それに何より先生だって疲れている。

朝から仕事をして緊急手術までして、遠くまで車を走らせてくれた。

さらに私の事をおんぶして雨の中を歩いた。

そんな彼を早く休ませてあげたいと思った。

「先生」

「はい?」

「初めてなんですけど……」

「……え?」

 一瞬、先生が固まる。

「だから、こういうホテルに入るのは初めてなんですけど」

 そう言うと、先生はなんとも言えない表情になる。

 困惑と安堵の中間というか、「いきなり何を言い出すんだ」.とでもいいだけな。

「そうですか……」

「でも、背に腹は代えられないですし。……ここにしましょう!」

 意を決して提案したのに。

先生は黙ったままハンドルに額を押し付けてフリーズしている。

 やがて顔を上げると、

「大丈夫ですか?」

 と確認するように聞く。

「先生となら」

 言った瞬間、意味深すぎて撤回したくなった。

でも本心だった。

もし相手が先生じゃなかったら、きっと断っている。

ホテルなんて入らない。

高柳先生は私を見つめたまま固まっていた。

「……それは反則です」

「え?」

「なんでもないです」

 耳が少し赤い。きっと私もだ。

先生は観念したように駐車場へと入っていく。

車を止めるとエンジンを切った。

「じゃあ行きましょう」

 そう言って先に車を降りて、助手席側のドアを開けてくれた。

「足、大丈夫ですか?」

「はい」

「無理してませんか?」

「すみません、少し痛いです」

白状すると先生は呆れたように笑う。

「でも、歩けます。無理してるわけじゃなくて……本当に」

「分かりました。ゆっくりいきましょう」

 ホテルの入口へ向かう短い距離、先生はまるでエスコートでもするみたいに私を護るみたいに、ゆっくりと歩いてくれた。