ミドサーですが、うっかり恋に堕ちまして

 轟音と共に空には大輪の花火が次々と咲いていく。

歓声が湧き上がるけれど、そんなものを見ている余裕はなかった。

俺は人混みをかき分けながら辺りを見渡す。

(どこだ……)

 浴衣の柄くらい聞いておくんだった。

必死で探すのに全然見つからない。

スマホを見るが返信はまだない。もちろん電話も繋がらない。

花火が上がるたび焦りだけが増していく。

オペを終わらせて急いでここまで来て、やっと会えると思った。

なのに、みつからないなんて。

(もしかして帰った、とか……?)

 弱気になり、必死で否定する。

彼女はそんな人じゃない。絶対に待っていてくれる。

じゃあ、彼女はどこに?

スマホで連絡を取れると思っていたから、待ち合わせ場所は決めていなかった。

そこでふと思い立った場所へ足を向ける。

賭けでしかなかった。

俺は走った。

これ以上、彼女を待たせたくない。

人波の向こうに、紫陽花柄の浴衣が見えた。

先週みた花火大会のポスターが掲示されていた場所。

(ああ、絶対そうだ!)

見覚えのある後ろ姿。

間違えるはずがない。

「ーー浅川さん!」

 気づけば声を張りあげていた。

その瞬間、彼女が振り返りぱっと瞳を見開く。

俺は人を避けながら、半ば強引に彼女の元へ向かう。

「先生……!」

 目の前まで辿り着いた瞬間、ようやく息ができた気がした。

かなり走った。情けないくらいに、息が上がってる。

「……見つけた」

 それしか言えなかった。

両膝に手を付いて呼吸を整える俺を見て、浅川さんは呆れたみたいな顔をしている。

「そんなになるまで走ってきたんですか?」

「はい。会いたくて! 浴衣……すごく似合ってます」

 彼女の瞳が揺れる。

また、困らせてしまったかもしれない。

けど、本心なのだから仕方ない。

「……急がなくてよかったのに。でも、ありがとうございます」

 浅川さんの笑顔をみて、全身から力が抜けそうになる。

間に合ってよかった。

「ひとりにさせてすみませんでした」

「……本当ですよ。来ないかと思いました」

 その言葉に胸が締め付けられる。

「死んでもきますよ」

 ドン、と大きな音が響く。

花火が夜空いっぱいに広がった。

 浅川さんが空を見上げる。

「……綺麗」

 その横顔に、心を奪われる。

「綺麗です、本当に」

俺は彼女の瞳に映る花火を見つめていた。

「高柳先生?」

 名前を呼ばれ、慌てて視線を逸らす。

「……すみません、見惚れてしまいました」

 浅川さんが同意するように頷く。

「分かります! 海辺の花火もすごく素敵ですよね」

ーー違う。

俺が見惚れていたのはあなただ。

 次の瞬間、特大の花火が夜空いっぱいに広がる。

 視界が真っ白になるほどの光と轟音の中で思う。

 ――たぶん俺、思ってたよりずっと浅川さんのことが好きだ。