腹黒外科医に唆された件~恋人(仮)のはずが迫られています~

「ごめんなさいね。松葉杖を付いている栞さんを、こんなところまで歩かせるなんて」
「そんなっ! リハビリをしているとはいえ、日常でも少しは動いた方がいいので、助かりました。最近の尚史さんは、その……過保護なところがあって、なかなか外に出してもらえなかったんです」
「……それは、無理もないことだと思うわ。栞さんなら、説明しなくても分かるでしょう?」
「はい……だから尚史さんに、園子夫人への連絡を頼んだ時、もしかしたら会っていただけない、と思っていました。事情はそれぞれ、尚史さんと姉から聞きましたが、園子夫人は当事者です。私に対する認識……いえ関係も、変わってしまった、と思ったので」

 私の言葉を聞きながら、園子夫人はテーブルの上にあるカップに手を伸ばした。中にある透明感のある紅茶に、園子夫人の顔が映る。眉が下がり、目の前の老婦人が、いつも穏やかで可愛らしい人ではなくなったことを悟った。

「そうね。轢き逃げ犯が捕まったことで、私と栞さんの関係は変わったわ。でも、栞さんの立場は変わらないでしょう? 交通事故の被害者以外の肩書が、付け加えられたわけではないわ。私は逆に、第一発見者と院長夫人という肩書に、加害者の身内が増えただけ。だから栞さんが畏まることなんてないのよ。私の方こそ、申し訳なさでいっぱいなのだから」
「……園子夫人」
「尚史くんから連絡を受けて、正直、嬉しかったの。弦くん……夫の方だけど、私にとっても可愛い甥っ子でね。あの子が事故を起こした後に、私たちが現場に居合わせて、さらに被害者である栞さんをウチの病院が受け入れた。その事実だけで、世間は私たちもグルだと思っているの」