腹黒外科医に唆された件~恋人(仮)のはずが迫られています~

「……いいなぁ」
「俺といれば栞の望みを叶えられる。逆に俺じゃないと難しいだろうな」
「……そうやって、いとも簡単に誘惑しないでください。悪魔の囁きに耳を傾けてしまいそうになります」

 あの時もここで、私はその囁やきを受け入れた。悔しいけれど、その時にはもう、私の気持ちは傾いていたのだ。岡先生に……。

 けれど逆に、岡先生はどうなんだろう。姉の前でキスされてから、これ見よがしにしてくるけれど……。

 笑う岡先生に手を伸ばすと、それが合図になったかのように近づいてくる。そしていとも簡単に唇が重ねられた。

「んっ」
「この手は悪魔の導きだな。そんな顔で差し出されたら、したくなるだろう?」
「っ!」

 あながち間違ってはいなかった。だけどこんな場所で医者と患者がしていい行為ではない。

「岡先生のせいで本当に悪い女になりそうです」
「いいじゃないか。芳口病院一の悪評外科医の女としては」

 仮ですよね、という言葉が言えずにいると、岡先生は意地悪そうに「ん?」と顔を傾ける。それを私は可愛いと思ってしまっているのだから、これはもう重症だった。

 だから、わざと話題を変えることにした。