腹黒外科医に唆された件~恋人(仮)のはずが迫られています~

「まさかっ! ただ、どうしてそうしないのか、疑問に思っただけです」

 医者になるために湊さんから借りた分は、すでに十分、返したように思えてならなかったからだ。

「確かに他の病院か、クリニックに移る選択肢はある。幸か不幸か、湊のお陰で実績はかなり積ませてもらったからな」
「だったら……ううん、尚更そっちへ移るべきです」

 寄生虫は、自分に都合のいい人間が近くにいれば察知して、擦り寄ってくる。そういう生き物なのだ。私はそれが姉だから逃げられないけれど、岡先生は違う。逃げられる内に逃げてほしい。

「岡先生……」

 思わず悲痛な声が出てしまった。すると岡先生は立ち上がり、私の目線に合わせるように跪く。

「どの道、同じ医療の世界にいることには変わりない。学会に顔を出せば嫌でも顔を合わせる。だから俺は、完全にこの悪縁を断ち切りたいと思っているんだ」
「っ!」

 姉妹の縁は、法律上、切ることはできない。書面であれば、戸籍を分けることはできるけど……所詮、紙の上の話だ。効果は薄い。けれど赤の他人は違う。書類などなくても、簡単に切れるのだ。