腹黒外科医に唆された件~恋人(仮)のはずが迫られています~

「こ、こちらこそ、院長夫人に下の名前で呼んでいただけるなんて、光栄です」
「琴美さん、大袈裟よ。それにね、発見から救急車の手配、さらに夫の病院に運んでもらってから付き添いまでした患者なんて、栞さんが初めてなの」

 私も姉が勤務する病院の院長夫妻に助けられたのは初めてです。

「だからどうしても気になってしまってね。こうして顔を覗きに来てしまったというわけなのよ。今までは病院内で私がうろつくと、周りが遠慮してしまうから避けていたのだけれど、今回はどうしてもね。夫もいいって言うから甘えさせてもらった、というわけ」

 まるで鈴を転がすように話す園子夫人。夫の芳口院長とも仲がいいらしく、日課である朝の散歩コースを一緒に歩いている時に、私を発見したのだそうだ。

「院長先生にもご迷惑を……いえ、妹を助けていただき本当にありがとうございました」
「琴美さん、顔を上げて頂戴。貴女も大変だったのだから。幸い、栞さんの命に別条がなくて、私も安心したわ」
「はい。警察の方が言うには、栞を轢いたのは一台のみだったそうです」
「あまり車が通らない道路だったから、それが幸いしたのね」

 逆に言うと、そんな道だから車が来るとは思わなかったのだ。