腹黒外科医に唆された件~恋人(仮)のはずが迫られています~

(おか)尚史(なおふみ)、といってね。こう見えても、優秀な外科医だ」
「……は、初めまして、一ノ瀬栞といいます」
「どうも。湊とは昔からの悪友でね。こういう時は大抵、駆り出されているんだ」

 まるで自分が湊さんの下っ端であるかのように言う岡先生。しかし、湊さんも負けてはいなかった。

「確かに今回は俺の方が悪いと思っているが、そういう言い方はないだろう? あと、婚約者とその家族の前だということを忘れないでくれ」
「今更繕ったって、もう手遅れなことを知るべきだな。お前らの尻拭いを、どこの! 誰が! するのか、言ってみろ!」

 ふふふっ。岡先生のその言葉を聞いた私は、思わず手に口を当てて笑った。それに虚を突かれたのか、三人の目線が私に集中する。けれど私は、お構いなしに笑い続ける。

 だって、あの時の私は、何も言い返せなかったのだ。エレベーターでお姉ちゃんと湊さんから話を聞いても、今の岡先生みたいに啖呵を切ることさえもできずに怯えていた。

 だから岡先生の姿が、とても頼もしく、清々しく見えた。口調も性格も悪そうに見えるのに、どうしてだろう。自分の気持ちを代弁してくれたようで、気分が良かったからかもしれない。