腹黒外科医に唆された件~恋人(仮)のはずが迫られています~

 湊さんに押してもらっている以上、主導権を握ることは皆無。さらにいうと、次期院長に車椅子を押してもらっている患者、ということで注目は浴びているけれど、誰も近寄ろうとはしなかった。

 救いの手を求めることもできないなんて……。

 さらに怖いのは、姉と湊さんの表情が見えない、ということだ。一応、他の目もあるから、にこやかな顔をしているのかもしれないが……それもそれで不気味で仕方がない。

 しかし、そんな気分もすぐに晴れるものが目に飛び込んで来た。いくつかある大扉の内の一つが、真正面に見えてきたのだ。
 まるで息の詰まりそうな世界から脱出する扉のように見えてくる。なぜならば、そこを抜けると、一面芝生に覆われた広い中庭が私の目に飛び込んできたからだ。

 けれどそれも束の間、まるで別世界のように見えた途端に、似つかわしくない声が聞こえてきた。

(おか)先生(せんせい)! またここでサボっているとは、いい度胸をしていますね」

 私は反射的に声の方へと顔を向ける。すると、白衣を纏った医師と思われる茶髪の男性が、年配の看護師に注意を受けている姿が目に留まった。