腹黒外科医に唆された件~恋人(仮)のはずが迫られています~

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「あ、あの……これは、一体、どういう状況なのでしょうか?」

 私は鏡の前で、斜め後ろにいる尚史さんの恩師、門脇(かどわき)さんの奥様に尋ねた。

 事の発端は、食事会の会場に指定されたホテルに着いた時のこと。なぜか門脇夫妻の出迎えを受けたのだ。

 まずそこで、疑問に思うべきだった。けれど私は、門脇夫妻を待たせてしまったのだと思い、急いで駆け寄った。すると突然、ニコリと笑った奥様に、腕を掴まれたのだ。

 勿論、尚史さんに助けを求めた。が、こちらも笑顔で手を振られてしまい、私はさらに混乱に陥る。

 どうして助けてくれないのか。けれど奥様には、娘のように可愛がってもらっている身だから、この手を振り払うことはできない。

 悶々と尚史さんへの愚痴を、胸の内で呟いていたからだろう。気がつくと鏡の前で、なぜか純白のドレスに身を包んでいたのだ。

「ふふふっ。夫から、二人が結婚式を挙げていないって聞いてね。せめて写真だけでも、と思って用意したの」
「あっ……」

 そう、私と尚史さんは、婚姻届を提出しただけで、結婚式を挙げていない。クリニックの開業に追われていたから、という言い訳はできるが、本音は誰も祝福してくれない式を挙げることに、意味を見いだせなかったのだ。

「開業する前に、籍だけでも一緒にした方がいい、と勧めた手前、ずっと気になっていたのよ」
「すみません」
「謝らないで。これは私の我が儘なんだから。栞ちゃんは、それにつき合わされているの。いいわね」

 さすがは地主の娘。普段は周りに気を遣う方なのに、ここぞという時に、その力を発揮させるんだから。そんなことを言われたら、断り切れない。

「うん。やっぱりこっちのドレスが、栞ちゃんに似合うわ。髪型はそうね。これがいいと思うわ。可憐で可愛らしいもの」

 ホテルの従業員に見せてもらったカタログに、指を差しながら、奥様は次々に指示を出していく。

 門脇夫妻には子どもがいないらしく、こういう楽しみをすることができない。と同時に、両親のいない私としても、親孝行している気分になった。
 いや、園子夫人への罪悪感もあったのかもしれない。引っ越してから、私は一度も会っていないからだ。