腹黒外科医に唆された件~恋人(仮)のはずが迫られています~

「栞? どうしたんだ?」

 『岡クリニック』と掲げられた白い建物を見ていたら、後ろから尚史さんに声をかけられた。

「ん~。なんか、感慨深いなぁ、と思って」

 なにせ私たちは、このクリニックを開業する二週間前に籍を入れたのだ。
 よって今の私は、『一ノ瀬 栞』から『岡 栞』になったわけだけど、苗字と名前がそれぞれ一文字になってしまい……日本人の名前ではないような、そんな微妙な気持ちに陥ってしまった。
 
 勿論、嬉しいわけではない。結婚もそうだが、『一ノ瀬』姓でなくなったことが大きいだろう。

 尚史さんの話によると、結局、姉は湊さんと別れたらしい。弦さんが事故を起こした原因が、二人の結婚だということが赤裸々に広まってしまったからだ。

 それによって芳口病院は経営困難に陥り、全く関係のない医者を院長に添えることで、信頼を取り戻そうとしていた。というのは建前で、ほとぼりが冷めたら湊さんを院長にして、再出発を図っているらしい。

 これも、芳口病院との繋がりを持っている、尚史さんの恩師から聞いた話だった。

「院長になるはずだった湊さんと、院長夫人になれるはずだったお姉ちゃん。私たちはそんなの望んでいなかったけれど、得られたんだよ」

 しかも、一国一城の主だ。