腹黒外科医に唆された件~恋人(仮)のはずが迫られています~

「尚史さん、ごめんなさい。それから……ありがとう」

 車を降り、部屋に戻るやいなや、私の今の気持ちをそのまま口にした。すると、ここまで私の腕を掴んでいた尚史さんの手が緩んだ。

「あっ、いや……もう怒っていないから」
「えっ? で、でも……ここまでずっと離してくれなかったから、てっきり」
「それはっ! 芳口病院の駐車場で、あの女が栞の腕を掴んだからで……あの時、どれだけ焦ったことか」

 あぁ、だからか。なんかやたらと距離が近いなぁ、とは思ったんだ。でも、お陰でとても心強かった。

「あのね、ここにお姉ちゃんが来た時も、さっきも、尚史さんがいてくれたから、あれだけ強気で出られたんだよ」
「そりゃ、栞を取られたらって思ったら、必死にもなるさ」
「ううん。そうじゃなくて……なんていうのかな。援護射撃じゃなくて、根底? 根元? 違うな」

 心の支え、みたいなものだけど、そんな曖昧な言葉だと、また誤解されそうで怖い。でも、正直に言うのは恥ずかしいし、引かれないかな。

 私はそーっと、尚史さんの顔を窺いながら、口を開いた。

「その……経済的なことだよ。私一人の稼ぎじゃ、暮らしていけない。お姉ちゃんがいて、ようやく私たちは暮らせていけたの。でも今は尚史さんがいるから……って、これじゃ、お姉ちゃんと変わらないね」

 まるで尚史さんを利用しているみたいだ。お姉ちゃんが金と地位を手に入れるために、湊さんに近づいたのと同じ……。