腹黒外科医に唆された件~恋人(仮)のはずが迫られています~

「ごめんなさい」
「帰ったら、覚悟しろよ」
「それはこちらの台詞よ。岡先生、栞を連れて帰るのは、私なんだから」

 うん、と返事をしようとした瞬間、腕を掴まれ、後ろに引っ張られた。その反動で、眼鏡がずれる。元々、パソコン用に買った伊達眼鏡だ。もう変装する必要もない。ちょうどいいとばかりに、私は眼鏡を外して、鞄にしまい込んだ。

「お姉ちゃん」

 呼んだのと同時に腕を強く払い、バランスを崩した姉を見据えた。

「栞、帰るわよ」
「何を言っているの? 私はもう子どもじゃないんだよ。いつまでも保護者面しないで! そもそも保護者らしいことだってしてこなかったじゃない。偉そうなことを言わないで!」

 今度は私に伸ばされた姉の手を、バシッと払った。しばらく姉と離れていたせいだろうか。箍が外れたかのように、怒りが込み上げてきた。

 その顔。その声。同じ場所にいて、同じ空気を吸っていることすら嫌だと感じるほどに、嫌悪感が私の心を支配していく。近くにだっていたくない。

 すると落ち着け、といわんばかりに、尚史さんが後ろから、私の肩に手を置いた。