腹黒外科医に唆された件~恋人(仮)のはずが迫られています~

 弦が出所した日の翌日。私は朝からワクワクしていた。
 すでに芳口病院では、誰も弦を迎えに行かなかった、と噂になっていたからだ。示談の件で、「薄情だ」とか言われているのに、そのメンツの回復よりも、爪弾きすることを優先したらしい。

 だけどその悪手は、逆に弦の動きをより読みやすくしてくれていた。お陰で、湊さんを張っているだけで簡単に、私の望む展開に立ち会えることができた、というわけである。

「よぉ、久しぶりだな、湊」
「弦、お前っ!」
「おっと、善良な若先生が、こんなところで声を荒げていいのか? いや、薄情者だと囁かれているから、もう本性を出しても大丈夫か」

 クククッと弦は、意地悪く笑ってみせた。いつもなら、そんな挑発的なことをされても、湊さんは相手にしないけど、今の芳口病院内で流れる噂を考えれば、無視できなかったのだろう。

「誰のせいで、こんなことになったと思っているんだ。あることないこと言って——……」
「おいおい、本気で言っているのか? 俺を焚き付けたのは湊、お前だぞ。あの日、お前が俺に何を言ったのか、忘れたわけじゃないだろうな」

 あの日? 栞が交通事故に遭った日かしら。

 咄嗟に私は、壁に隠れた。
 警察署に拘束されていても、弦はけして、岡先生の名前は出さず、関係のない湊さんの名前を出していた。だけど今の話が本当だとしたら……無関係だと思っていた湊さんも、一枚噛んでいたってことなのだろうか。

 もしかしたら、弦を唆したのは岡先生ではなく、湊さん、なの?