「ヤバっ!」
「えっ、どうしたの?」
「すみません。事情が分かったので、私はこれで」
失礼します、という言葉さえ、最後まで言っている時間はなかった。昨日、弦さんに言われたことを思い出したからだ。
『上手くやれば巻き込まれた被害者、という立場を得られる。一ノ瀬妹。あんたを利用すればな』
そんなこと、絶対にさせないし、されたくない。私はすぐさま入り口に向かって走り出した。その拍子に、帽子が取れ、髪が外気に当たる。帽子も後ろに飛んでいったが、取りに行っている暇もない。
後ろから、弦さんと姉の声が聞こえてきたからだ。距離があるからか、言葉までは聞き取れない。
私は構うことなく、自動ドアを抜けてロータリーの脇の歩道を駆ける。すぐに乗れるバスはないけれど、タクシーなら、と手を挙げた瞬間、その手を誰かに取られたのだ。
「っ!」
思わず声にならない悲鳴をあげると、「俺だ」と聞き慣れた声が聞こえてきた。
「あっ……」
「言いたいことは山ほどあるが、とりあえず、こっちだ」
「……尚史さん。ごめんなさい」
手を取られたまま、私はただ、謝ることしかできなかった。
「えっ、どうしたの?」
「すみません。事情が分かったので、私はこれで」
失礼します、という言葉さえ、最後まで言っている時間はなかった。昨日、弦さんに言われたことを思い出したからだ。
『上手くやれば巻き込まれた被害者、という立場を得られる。一ノ瀬妹。あんたを利用すればな』
そんなこと、絶対にさせないし、されたくない。私はすぐさま入り口に向かって走り出した。その拍子に、帽子が取れ、髪が外気に当たる。帽子も後ろに飛んでいったが、取りに行っている暇もない。
後ろから、弦さんと姉の声が聞こえてきたからだ。距離があるからか、言葉までは聞き取れない。
私は構うことなく、自動ドアを抜けてロータリーの脇の歩道を駆ける。すぐに乗れるバスはないけれど、タクシーなら、と手を挙げた瞬間、その手を誰かに取られたのだ。
「っ!」
思わず声にならない悲鳴をあげると、「俺だ」と聞き慣れた声が聞こえてきた。
「あっ……」
「言いたいことは山ほどあるが、とりあえず、こっちだ」
「……尚史さん。ごめんなさい」
手を取られたまま、私はただ、謝ることしかできなかった。



