腹黒外科医に唆された件~恋人(仮)のはずが迫られています~

「いつから、なんですか?」
「この騒ぎが始まった時間?」
「はい」
「午後の受付時間が始まる、少し前だったかしら。待合室には、受付時間関係なく人がいたから、どれくらいの人が影響を受けているのか分からないけど」

 つまり、この騒ぎで受付も機能しているかさえ、不明らしい。よく見ると、受付のカウンターに近寄る人もいなかった。

「最近、若先生の噂を聞いているから、皆、気になっているのかもしれないわね」
「噂?」
「あら、知らない? 丹羽先生が轢き逃げ事故を起こしたんだけど、若先生、助けようとしなかったらしいのよ。身内なのに、酷いわよね〜」

 どう助けなかったのか、についてはどうでもいいらしい。轢き逃げ事故、湊さん、助けなかった。それが酷いことをした、という線で一括りに結ばれ、拡散されていった。ということなのだろうか。

 示談の二文字すら、そのおばさんの口から出ず、私は困惑してしまった。

「さらにね。その轢き逃げされた被害者が、ここに入院していたらしいんだけど、早々に追い出しちゃったんですって。ここにずっとお世話になっているけど……そんなことをする病院じゃ、なかったんだけどね。やっぱり若先生の影響なのかしら」

 早々に追い出されたのではなく、退院先の住まいが尚史さんのマンションだったため、早期退院の許可が得られたのだ。
 まさかその事実も、湾曲していたなんて……いや、むしろ好都合だった。

 すると、どこからか視線を感じて、待合室を見渡した。その途端、「栞っ!」と叫ぶ、姉と視線がぶつかった。