腹黒外科医に唆された件~恋人(仮)のはずが迫られています~

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 最後にここへ来たのは、リハビリ最終日。つまり、松葉杖が取れた日のこと。考え深くて、芳口病院を見上げたけど……あの時と同じように、私は顔を上げた。

「いつも転機はここだから」

 それ以上の感情は言葉にならず、私はただ呑み込むようにマスクを付け、自動ドアをくぐった。けれど感傷に浸られたのは、ここまで。すぐに怒涛の声が聞こえてきたからだ。

「やめてください!」

 姉の声だった。もう始まっていたの? と視線を向けると、姉が湊さんを庇うように、弦さんの前に立ち向かう姿が見えた。

 まるで悲劇のヒロインみたい……。

 幸い、来院者が遠巻きにしていたお陰で、遠くからでもその光景を見ることができた。私は何も知らない来院者を装い、驚きながら壁の方へと移動する。そこで間の悪いことに、お喋り好きなおばさんに捕まってしまった。

「あら、あなたもお見舞いに来たの?」

 私がすぐに受付カウンターへ行かなかったからだろう。見舞客だと思ったらしい。なにせ、病棟に通じるエレベーターがあるのは、弦さんたちのいる方だったからだ。

「でも今は、やめておいた方がいいわよ。丹羽(にわ)先生が突然、若先生に突っかかってきてね。それをあの看護師さんが止めに入ったんだけど、余計に悪化したみたいで……どうなっちゃうのかしら」

 丹羽先生というのは、弦さんのことである。若先生は勿論、湊さん。残る看護師、というのは……姉だ。