腹黒外科医に唆された件~恋人(仮)のはずが迫られています~

 けれど、物語の世界というのは、何も幸せなものばかりではない。シンデレラが王子様に出会い、見初められている裏で、虐げていた姉たちは残酷な末路を辿る。

 私はその末路に立ち会うことを、尚史さんと弦さんに止められていたけれど……無理だった。最後まで、見ておきたかったのだ。

 翌朝。病院から連絡が来たのか、スマホが鳴ると早々に出ていってしまった尚史さん。私には「くれぐれも病院には来るなよ」とだけ告げて。

 昨日の今日で、すぐに実行するとは思えなかったけれど、わざわざ念を押す、ということは……と思わず勘ぐってしまう。

「どうしよう、かな」

 髪型を変えて、眼鏡をかければバレないかもしれない。病院だから、マスクは当たり前だし……。

「う~ん」

 芳口病院の待合室は、いつも人であふれている。大きな病院だから、受診目的ではなくても、受付の待合室にいる人は多いのだ。お見舞いにやって来た人や、付き添いの人とか。
 だから変装した私がいても、多分、バレないだろう。待合室は、部屋というよりロビーのように、吹き抜けていて広いのだ。

「うん。やっぱり、行こう」

 そうと決まったら、急いで外出の準備をし始めた。午前中は人でごった返す時間帯だから、さすがにそこは避けると思ったからだ。
 慌ただしくて、殺気立った人が多くいる場で仕掛ければ、逆に弦さんの方が非難を受けかねない。それならば、と狙う時間帯は午後しかない。夕方は診察を受け付けていないからだ。

 私は早めに昼食を取り、後ろ髪をすべて帽子の中に入れ、ブルーライトカットの眼鏡をかける。服はあまり種類がないから、普段とは違うコーデで誤魔化すしかない。それでも尚史さんにはバレそうだけど……似たような服を着た人はいっぱいいるから大丈夫だろう。
 鞄は小回りが利くように、小さめのをチョイス。靴も同じ理由でスニーカーを選んだ。

 さぁ、これで準備万端。いざ、芳口病院へ!