腹黒外科医に唆された件~恋人(仮)のはずが迫られています~

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 やって来たお店は、パスタチェーン店で、個室があり、ちょっとお洒落な建物だった。どことなくファミリー向けに見えるけど、洗練されているというか、落ち着いている。そんなお店だった。

 さすがは尚史さん。いくら安いお店とはいえ、私みたいなのが普段行くお店とは格が違うのね。
 今は晩夏で、夕方になると肌寒くなるから、カーテガンを一枚羽織ってきて大正解だった。こんなところに、Tシャツ一枚で来たら、恥をかいていただろう。
 尚史さんはいつも病院に行く時と変わらないから、気にならないんだと思うけど。

 ううん。なんの準備もしてこなかったんだもの、仕方がないわよ。

 周りを見ると、私たちと同じラフな格好をした人たちも多くいたため、席に座る頃には、あまり気にならなかった。

「さっきの喫茶店だと、何も食べなかったからな。栞はちゃんと食べてきたか?」
「うん。私を置いていった理由が、なんとなく分かっていたからね」

 私がいると話せない、二人だけの話があったんだろう、と思ったのだ。

「尚史さんだけ、面会できなかったでしょう? だから、ゆっくり家を出たの。でも一言、前もって言ってくれれば、こんなに怒らなかったんだよ」
「すまない。お詫びに好きなだけ頼んでいいから」
「……さっき節約って言った傍から、そんなことできないよ」
「あっ……」
「大丈夫。ちょっと嬉しかったから。だって、私たち二人のための節約でしょ?」

 すると、尚史さんも嬉しかったのか、照れた顔を誤魔化すようにメニューに目を向けた。私は初めて来るお店だったため、注文は尚史さんに任せた。

 退院してから、松葉杖での生活に慣れない頃、食事は尚史さんが担当していたのだ。今は私が作っているけれど。お陰で、尚史さんは私の好みを熟知している。逆に嫌いなものも。だから任せても、大丈夫なのだ。