腹黒外科医に唆された件~恋人(仮)のはずが迫られています~

「帰る前に、どこかで食べていかないか?」
「いいけど……なんで?」
「つき合ってから、外食したことなかっただろう? 栞の足のこともあったから、お互い口に出さなかったけど」
「そ、そうだね……」

 確かに、松葉杖をついていたから、どこかに出かけたり、食事に行ったりしていなかったかも。そう、デートだって……デートっ!?

「あっ、でも、私。普段の恰好だから……その……」
「俺だっていつもの恰好だよ。弦に会うのに、洒落た服なんて、わざわざ着ないし」
「そ、そうだよね」
「逆に、栞がお洒落してきたら……」
「きたら?」
「いや、なんでもない。ともかく、今後のこともあるから、なるべく節約したいんだ。安い店で悪いんだが」

 今後……あっ、確かに引っ越しとか、住む場所とか。色々と物入りだもんね。

 離れたと思っていた距離が、ぐっと近づいたような気がして、口元が緩みそうになった。思わず下を向くと、「嫌だったか?」と顔を覗かれ、恥ずかしさのあまり、尚史さんの上着の裾を掴んでしまった。

「大丈夫。むしろ、そっちの方が安心するから」
「よかった」

 尚史さんの嬉しそうな顔に、さっきまでの嫌な気分が霧散する。足が治って良かった、と思う反面、それまでどんな気持ちで尚史さんに向き合っていたんだろう、と思ってしまう。

「これが、恋人らしいことをしてこなかった報いなのかな」
「ん? 何か言ったか?」
「ううん。なんでもない」

 私は誤魔化すように、尚史さんの腕にそっと寄り添った。