腹黒外科医に唆された件~恋人(仮)のはずが迫られています~

 弦さんから話を聞いた後、私たちは別れ、帰路につこうとしていた。

「浮かない顔をしているな。まだ納得できないのか?」

 隣を歩きながら、ため息を吐いたからだろうか。それとも、考え事をしていて、ずっと黙っていたからか。尚史さんが顔を覗き込んできた。

「……できない、というより、弦さんにとって、こんな結末で良かったのかなって思ったの」

 だってこれは、弦さん一人が貧乏くじを引いたようなものだからだ。これから尚史さんとやろうとしていることが、上手くいこうがいくまいが。

「このまま何もせずに、去ることもできるのに、それを選ばなかったのは弦だ。今後の人生を思えば、どっちでも変わらないんだろうけどな」
「もう芳口病院では働けないもんね」

 さらにいうと、芳口病院は大きな病院だ。そこで問題を起こした、もとい、交通事故を起こした身。人を救う立場の人間が、逆に危害を加えたのだ。
 いくら示談で前科が付かなくても、医者として働くことは無理だろう。少なくとも、ここら辺一帯では。