腹黒外科医に唆された件~恋人(仮)のはずが迫られています~

「……私にできることなら」

 案の定、美味い話には裏がある、といわんばかりに湊さんと姉は顔を合わせて、ニャッと笑った。
 先ほどまではいい義兄の顔に見えたのに、今は姉と同じ人間にしか感じない。私は間違った返答をしてしまったのではないだろうか、と思ったが、もう引き返せなかった。

 冷暖房がしっかりしたエレベーターの中、出ることのない冷や汗が、垂れたような気がした。けれど私の気持ちなどお構いなしに、湊さんはサラッと、協力してほしいことを口にした。

「こうして栞さんを外に連れ出している間、僕たちもまた、外に行きたいんだ」

 え? 今なんて?

 私は湊さんの言葉に驚きを隠せなかった。けれど待ったなしに、姉によって話は続いていく。

「つまりね。私たちは患者さんの容態次第で、なかなかまとまった時間が作れないのよ。栞なら分かるでしょう?」
「まぁ、私みたいに決まった時間で仕事をしているわけじゃないことくらいは、知っているよ」
「湊さんは特に外科医だから、救急が多くて。だから結婚の準備も、なかなかね〜」

 進まないことは、姉にとって一番困ることだった。それが手に取るように分かるだけに、向こうの言い分も理解できた。