腹黒外科医に唆された件~恋人(仮)のはずが迫られています~

「名前も呼びたくないってか。俺たちの仲が悪いのは、親戚中が知っているほどだが、お前たちのは初耳だぞ。そもそも琴美とは関わろうとすらしなかったじゃないか」
「アホか? お前らが取り合っている女に関わって、なんのメリットがあるんだよ。損しかねぇよ」
「その損しかない女の妹と付き合っているんだろう? どういう心境の変化だよ」

 あぁ、そうか。同じ病院にいても、弦は栞に関することに目を向けてもいなかったんだな。まぁ、無理もないか。自分が轢いた相手だ。わざわざ被害者と接点を持つのは、リスクが高い。

 けれど栞は突然のことで、近づいてきた車の車種すら覚えていなかった。乗用車だったのか、ワゴンだったのか、軽だったのかさえも。だから当然、乗っていた人物の顔すら分からなかったのだ。

 俺は湊と一ノ瀬姉が、栞の入院にかっこつけて、何をしていたのか。さらにそれを利用して、栞との仲を深め、今は同居していることを話した。

「なるほどな。それで早々に示談を進めた、というわけか」
「湊も一ノ瀬姉も、示談しないように、栞に言ってきたからな。まぁ、その嫌がらせでもあったんだ」
「ふ~ん。それじゃ聞くが、お前たちの目的はなんだ? あいつらの破滅か? それとも逃亡か?」
「自由だよ」

 一瞬、俺自身が答えたのかと思った。けれど弦の問いに答えた声は甲高く、鋭い。どこか怒りに満ちた声が後ろから聞こえて、俺は咄嗟に振り返った。

「……栞」

 仁王立ちした栞が、俺たち二人を睨みつけていたのだ。